DIARY
006
 「ロシアのことを考える時感じるのは愛国心それとも郷愁?」ロシア人ジャーナリストに最近された質問です。私には答えられませんでした。それまで考えたこともなかったし、あまり断定した返事もありふれすぎるし、正しい答えではなかったはず。
 日本のアニメがロシアに進出してきたおかげで最近、おもしろい運命の人間としてロシアのマスコミが私に関心を示しだしました。おもしろい運命ではあっても他の人の運命と同じで、さして特別なことは何もありません。繰り返しのきかない運命ではあっても特別なものではなく、勉強し、夢の実現に努めた、一生懸命努力したので夢が実現できた、程度のものです。《ふたつの世界》と私がよぶものがあること、いくつかの文化を受け入れることには今では誰も驚きません。つまり移住はよくある現象になりました。もちろん移住したロシア人は時がたつにつれて生粋のロシア人とはかなり違ってきます。自分の世界が人生での経験によってだけでなく、年ごとにどんどん入り込む情報やら、暮らし始めた新しい社会の影響によっても《広がって》きますが、多くは第二言語を知ることによります。ロシア語でない言葉で考えはじめると新しいエネルギーのかたまりが簡単にほとばしり出ることを経験で知っています。まるで肺がふたつではなくよっつに増えて、ついに胸いっぱい息ができるといった具合です。この感覚がいつも私には不足しているような気がします。そしてロシアに帰る時、私は《ふたつの世界》の存在を感じ、それを近しい人みんなと分け合いたい、幼いころのそれぞれのシーンを分け合いたいと思うのです。それが故郷に惹かれるゆえんです。
 ロシア人ジャーナリストが書いた記事で、彼は私のことを日本にロシアの文化を運ぶミュージシャンとよびましたが、私は反対に、自分の《日本世界》をロシアに持ち込んでいるのだと思えるのです。

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